カブシキ!

  • 2010/12/15(水)
  • 長生きは罪なのか。老人医療に際して思うこと。 その2

    その1

    わたしはほぼ毎日、スズキ病院の全床を回診していた。医師はわたし一人である。
    「こんにちは。」と声をかけても、返答ができる患者はほとんど居ない。ずっと目を閉じたまま、眠り続ける患者。意識はあるのだが、呼びかけに反応せず、ただただ虚空を見つめている患者。呼びかければ目を開けてくれ、視線も合わせることができるのだが、返答ができない患者。意識もハッキリしていて、自力で歩けるのだが、認知症のせいで正常な返答ができない患者。

    様々な入院患者が居るが、そのすべてに共通するのは、「自分で自分のことを決めることができない。」ということ。
    入院患者は、なぜ自分が入院しているのかを理解していない。入院は家族の意志で決められている。

    ある入院患者、70歳女性Nさんは軽い認知症がある。しかし身体的には健康で、自分で歩行もできる。回診のたびにNさんはわたしに聞く。「わたしはいつ退院できるのでしょうか?」
    彼女が入院している理由は、長男夫婦がNさんの面倒を見れないからである。長男さえ真剣にNさんの面倒をみる気になれば、彼女は家に帰ることができる。
    しかし、70歳のNさんの長男と言えば、まだ40歳代の働き盛り、24時間Nさんの面倒をみる余力は無い。結果、Nさんは家族に面倒をみてもらえず、スズキ病院に長期入院することになる。

    さて、Nさんが急に脳梗塞を起こしたとしよう。
    老人ばかりの病院なので、脳梗塞などのイベントは頻繁に起こる。
    スズキ病院は療養型病床なので、脳梗塞の治療は出来ない。医師として非常に悔しい思いをするのだが、療養型病床では殆どの医療行為が出来ない。仮に医療行為(脳梗塞の治療目的の点滴や、CT検査や、手術など)をしたとしても、健康保険からはお金を支払ってもらえない。つまり、検査や治療をすればするほど、病院は損をする。

    検査さえも出来ないのだから、診察だけで病状を判断しなければならない。重篤な病態であると判断し、スズキ病院では対応できないと思ったとき、わたしはまずNさんの家族に連絡する。

    「Nさんが、脳梗塞を起こしているかもしれません。スズキ病院では詳しい検査はできませんから、もし検査や治療を希望されるなら、総合病院を受診してもらわないといけません。受診を希望される場合は、救急車で受診しますから、ご家族のどなたかに同乗してもらわないといけませんので、すぐにスズキ病院まで来て下さい。受診を希望されない場合は、スズキ病院で治療しますが、出来る治療は限られます。簡単な点滴と酸素投与くらいしかできません。Nさんも高齢ですので、救命できない可能性が高いです。どうしますか?」

    突然こんな電話がかかってきたら、誰だって動転するであろう。
    Nさんの長男も動転していたが、「スズキ病院で出来る範囲の処置をしてください。もう、大きい病院の受診は希望しません。」とハッキリと答えた。

    この事例にみられるように、スズキ病院には「患者の意思」というものが存在しない。そこにあるのは「家族の都合」だけだ。
    患者本人が希望しなくても、家族が希望すれば、総合病院に転院して高いレベルの検査や治療を受けることができる。
    患者本人が希望しても、家族が希望しなければ、総合病院を受診することはできない。

    スズキ病院において、わたしは患者本人のためではなく、家族のために診療を行なっていると言っても過言ではない。


    その3
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