「お金儲けは悪いことですか?」
2006年6月、ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引を行った容疑で逮捕され、のちに執行猶予つき有罪判決を受けた村上ファンドの村上世彰氏。逮捕間際に言ったその言葉が注目された。以後、表舞台から姿を消したが近年株式取引の世界に復帰。その動向が注目されている。
本書は、その村上氏の最初にして最後の著書であり、半生記であり、投資理念の解説書でもある。灘高―東大法―通産省を歩んだエリートがなぜ投資の世界に飛び込み、いったい何を試みたのか。ニッポン放送、阪神鉄道、東京スタイルなどへの投資において、いったい何があったのか。その投資哲学、日本企業、日本の経営者たちへの見方はどうなのか。そして今後何をしようとしているのか。
村上ファンドを率いて日本に旋風を巻き起こした著者が、その実像と思いを自ら書き上げた話題作。非常に良い本でした。
買ってよかった。
村上世彰氏が関与した取引は、2002年くらいからマスコミに取り上げられて、東京スタイル、ニッポン放送、阪神タイガースのニュースは知っていました。
当時は、マスコミというフィルターを通じて知った村上世彰氏のことを見ていましたので、投資家=悪者という構図をマスコミから押し付けられていたのだと思います。
本書を読むと、村上世彰氏が一貫して提唱する『コーポレートガバナンス』の大切さがよくわかります。
氏の主張はすごく真っ当であり、コーポレートガバナンスが浸透しないと、日本の復活はありえないことがよくわかりました。
2006年の時点で、氏を逮捕してしまったことは、日本経済にとって大きな損失になったようです。
あれから10年以上たっても、日本の株式市場は、コーポレートガバナンスが守られないまま、旧態依然とした、『既得権ジジイ』の巣窟になっています。
参考になった所を箇条書きに。
「上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ。一番安いところで買ったり、一番高いところで売れるものだと思うな」
氏の最も尊敬する、父親の言葉です。
父親の生い立ち(台湾で生まれ育った日本人であった)や、その仕事(投資家として成功していた)ことが書かれていました。その父親の残した金言が上記です。この金言は、投資家にとって永久不滅の言葉でしょう。
保有している資産に比して、時価総額が低い企業に投資する、というシンプルな投資法を実践。
しかし、すぐに「ハゲタカファンド」と批判されてしまう。これは非常に残念で、わたしは長い年月をかけて理解して貰おうと努力してきた。
昔から長期に保有している有価証券や土地などを保有しているのに、時価総額が低いという企業はたくさんあります。氏の行っていることは極めてシンプルな戦略ですが、マスコミからみると、買収とかハゲタカファンドと批判の対象になるようです。
このように投資家を批判するような日本の土壌が、投資家の出現を阻んでいるのだと思います。
政府は仕組みを作ることができるが、実践するのは株式市場にいるプライヤーだ。だから私は、そこで働いている銀行や証券会社のひとに期待した。
日本に、「コーポレートガバナンス」を浸透せようとしたが、腰の重いプレイヤーたちに怒っている村上世彰氏。
そんなこと、前例がないしできなという彼らに呆れたそうです。この出来事から氏は自分がプレイヤーになって市場を変えていこうと決心したようです。
私はこれまでの経験から、人をマネジメントしたり日々の事業を運営することは苦手であることを自覚している。投資家と経営者はまったく違うのだ。
通産省での経験から、自分の能力に客観的に気がつけた村上世彰氏ならではの発言です。
経営者に向いていないと判断した氏は、40歳で通産省を辞めて、投資家として生きていくことを選びます。賢明な選択だと思います。
リーマンショック直後は株が暴落し、大幅にディスカウントされていた。だから割安になった株式市場に投資した。
不動産不況のときは、不動産にも大きな投資をした。
現在はアジアの不動産に積極的に投資している。
その業界が大いにディスカウントされているときに投資を開始するのは、セオリーですが、、、こんなに簡単にディスカウントかどうかが判断できるわけではありません。
村上世彰氏にはその判断ができるのかと思っていましたが、、、
ギリシャのデフォルト、中国のマイクロファイナンスの会社に投資をした時には大損した。
失敗しない投資など投資と言えない、と私は思っている。投資家として大事なことは、失敗したと気がついた時にいかに素早く思い切った損切りができるか。
いろいろな失敗や損失を経験しています。大切なのは、失敗から学び、下がり始めたら売る判断をいかに速やかにできるかということです。
利食いも、損切りも、とても大切です。
日本では、投資家とは「汗をかかずに大金を儲ける人」と悪く思われがちだ。(中略)投資家のもう一つの仕事は、投資先企業の経営を監視監督することだ。
投資家は、資金を出すかわりに、投資先の経営を監視監督し、「その責任を取る」ことでリターンを得ます。
野球の監督がチームの成績に責任をとるのは当たり前のことなのに、投資家が投資先の企業の利益について責任をとる(リターンをもらう、損失を被る)ことに世間は納得がいかないようです。
日本ではこのような風潮を変えていかないと、大きな投資家は育たないと村上世彰氏は繰り返し言っています。
最大のパフォーマンスを追求できる判断ができる経営者こそ、優れた経営者と呼べるのだ。一方で悪い経営者とは、会社を私物化し、株主の目線に立たない経営者だ。
会社の経費を無駄につかったり、株式の持ち合いに走ったり、余剰金の使いみちを明示せず、株主とも対話しない(ある企業の社長のことを批判しています。)経営者のことを痛烈に批判し、そのような会社に経営の改善を進言するのが真の投資家です。
麻生太郎財務大臣が、内部留保を積み上げている日本企業に対して「まだお金を貯めたいなんて、単なる守銭奴にすぎない」と発言して非難された。
麻生氏の発言には、村上世彰氏も賛成しています。
この「非難された」というところに、日本の投資環境の問題点があると氏は指摘します。
内部留保は単なる保身でしかありません。大企業であれば、いざという時には市場から資金を調達できるのです。資金を積極的に投資せず、株主にも還元しないのは、単なる思考停止でしかありません。
守銭奴と呼ばざるを得ないでしょう。
株主はもっと真剣に投資先の意思決定に関わる姿勢が必要だ。
(東京スタイルとのプロキシファイトに負けて)マスコミは、僅差になるまで善戦したことに賛辞を送ってくれた。だが私にとっては、勝たなくては意味がない。悔しくてたまらなかった。
日本初のプロキシファイトを戦った村上世彰氏は、善戦するも敗北してしまいます。このときに戦い続けることを決意するのですが、負けた原因を調べるに、頼りにしていた外国人株主の割合が40%から20%まで減っていたことに気が付きます。
そうです。彼らは東京スタイルの株価が高くなったときに、さっさと売り抜けて利益確定していたのです。
2001年当時のフジサンケイグループは、ラジオ局のニッポン放送が、フジテレビの親会社であり、筆頭株主として三割を超える株式を保有していた。簡単に言ってしまうと、現金一万円が入ったお財布を7000円の値段で売っているようなものだ。
この表現は秀逸だと思い、付箋をしました。
2001年当時の報道では、なんでニッポン放送株が買われているのかよく分かりませんでしたが、村上世彰氏は単純に安いから買っていただけであったことがわります。こんなのが普通に市場で売られていたら、誰だって買いますよね?
この歪さを正したかった氏は、ニッポン放送に改善を求めますが、ニッポン放送もフジテレビも保身に走るばかりで株主を無視した対応をとっていたのです。本質的なことが解決されないまま騒動だけが「報道によって」大きくなってしまい、
マスコミのちからによって村上世彰氏がインサイダー取引の容疑で逮捕されるという最悪の結末になってしまったようです。
IT企業がニッポン放送を通じてフジテレビに対して発言権をもてば、事業提携や業務提携が可能となり、新しいメディアの形が生まれるきっかけになるという想いもあった。
もし、2005年当時にITとTVの融合が進んでいたら、、これを書いている2017年にはTVなんか無くなってすべてインターネット方法に変わっていたのかもしれません。
そう考えると、既得権にガッチリしがみついたジジイ達のせいで、経済や技術の発達が年単位で遅れてしまったような気がして、腹立たしく想います。
ライブドアの堀江貴文が登場した時点で、世間では新興企業のテレビ局乗っ取りのような報道がされてしまい、
面白おかしく報道されたことをとても残念に思いました。 しかし、この本を読むまではわたしもニッポン放送の事件の真の姿を知りませんでしたので、いかに報道によって、間違ったことを教えられるかを知ることができて良かったです。
メディアを通じて見てきた星野氏も、実際にお目にかかった際の星野氏も、非常に紳士的で冷静で、公の場であのような発言をする方には思えなかった。
今度は村上世彰氏による阪神鉄道の買収報道のことです。
村上世彰氏はもちろん、乗っ取るつもりなどなく、ただ阪神鉄道の経営を改善したかっただけなのですが、マスコミによって、偏った報道をされ、仲間だと思っていた星野仙一氏にも、結果的に裏切られたことになります。
結局、阪神鉄道の経営改善もマスコミによって潰され、経営の改善が何年も遅れることになります。
誰も手を出さなかった既得権に真正面から猛然と挑んだ堀江氏。それを現実のものとならしめたライブドアの資金調達には、本当に驚かされた。
当時の若きIT起業家を褒め称える村上世彰氏。
しかし、その成長が早すぎるが故に世間から嫌われ、風説の流布と有価証券報告書に虚偽の記載をしたとして証券法違反に問われた堀江貴文のことが詳細に書かれていました。
懲役2年6ヶ月の実刑判決を受けて服役した堀江貴文氏は、2017年現在すっかり返り咲いているのです。
あのときの堀江貴文氏は、いままだ新しいことにどんどん挑戦しているのです。あの時、ライブドアによるテレビ局の経営改善が実現していたら、世界は正しい方向へ速く進化できていたのでは?と思ってしまいます。
(株式会社日本への提言)
資金が循環し始めれば、景気は必ず回復し、経済は成長する。物価は上昇し、企業の業績も伸びていく。そうなれば近い将来、日経平均株価が過去最高の4万円台になることだって夢ではないとおもう。
企業の内部留保、個人の貯蓄志向、資金が循環していないことは、血が流れていないことだと批判し、
徹底して投資の重要性を語ります。
わたしもその通りだと思います。
徹頭徹尾、コーポレートガバナンスと資金循環の重要性を強調し、
それを実践して「物言う株主」として活躍してきた村上世彰氏の本当の姿を知ることができる本でした。
いまはシンガポールに移住して、ランニングをしたり投資をしたりして、悠々自適にされているようなので、安心しました。
氏の考え方には、共感できる部分が多すぎて、とても引き込まれる本でした。